
デジタルフォレンジックにおける AI:捜査チームのためのベストプラクティス
重要なポイント
- AI は、デバイスデータを分析し、パターンを特定し、数日ではなく数分で複数のソースにまたがる証拠を関連付けることで、デジタルフォレンジックを高速化します。
- 人間の捜査官の存在は依然として重要です。AI は精査とトリアージをサポートしますが、検証、証拠の取り扱い、証拠保全の連鎖、法廷での提示には、引き続き有資格の専門家が必要です。
- AI を効果的に使用するには、適切な慣行に従う必要があります。たとえば、内容をよく把握しているケースから始める、データソースを理解する、AI を協働型の捜査ツールとして扱うといった慣行です。
- AI は間違えることやデータを誤解釈することがあるため、AI によって生成されたすべての調査結果は、承認されたフォレンジック手法を使用して独立して検証する必要があります。
- AI は、膨大なデータ量、未処理案件、デバイスを横断した証拠の関連付け、捜査官への実用的な情報提供の遅れなど、捜査上の主要な課題に対応します。
- 日本の捜査チーム向け:組織犯罪やサイバー犯罪の捜査は国境を越える性質があるため、多言語での証拠分析や未解決事件の再精査は、最も価値の高い AI 活用例の 1 つとなります。
人工知能は、デジタルフォレンジックの可能性を変えつつあります。1 台のデバイスから抽出したデータを確認するのに、以前は手作業で数時間、場合によっては数日かかりましたが、今ではわずか数分で完了します。複数のデバイスやデータソース、被疑者の間のつながりも、以前はアナリストチームが数日かけて特定していましたが、1 回のセッションで特定できるようになりました。
しかし、AI で目に見える成果を出しているのは、AI を最も早く導入した機関ではなく、AI の導入を慎重に進めている機関です。こうした機関は、ツールの目的や正しい使用方法に加え、テクノロジーがどれほど高度化しても変わらないものは何かを理解しています。
ここでは、AI 支援型デジタルフォレンジックに初めて取り組むフォレンジック捜査官や調査官のためのベストプラクティス 10 選をご紹介します。
デジタルフォレンジックにおける AI とは
デジタルフォレンジックにおける AI の活用とは、機械学習、自然言語処理、エージェント型 AI をデジタル証拠の分析、トリアージ、解釈に応用することを意味します。AI を活用するフォレンジックツールは、携帯電話、Portable Case、CDR から抽出したデータを分析することができます。この情報は、被疑者、タイムライン、コミュニケーションパターン、デバイス間の関連性など、捜査に役立つインサイトを引き出すのに役立ちます。フォレンジックの実務担当者は、引き続きエキスパートとしての役割を果たし、AI は実務担当者をより迅速に重要な情報へ導きます。
デジタル捜査における AI のベストプラクティス 10 選
1. 既知の事件から始める
AI フォレンジックツールへの信頼を最も早く築くには、内容をよく把握しているケースでテストすることです。まずは、既知のデータや、以前に手作業で精査した抽出データ、検証できる結果を使用して、自分が過去に携わった事件から始めます。手作業での精査で見つけたものと同じ関連性を AI がより短時間で明らかにしたとき、信頼が芽生えます。よく知らない事件から始める場合、ただでさえ新しいプロセスに、さらなる不確実性が加わることになります。
2. AI がローカルデータを対象にしているのか、ウェブを参照しているのかを把握する
作業を開始する前に、AI 捜査ツールが動作している環境を把握してください。クローズドで安全なサンドボックス環境で、提供された証拠のみを使用してデータを分析していますか?あるいは、インターネットに接続されており、外部ソースからデータを取得しているのでしょうか?捜査に利用する場合は、AI がどのようなデータを基に処理を行っているのかを正確に把握する必要があります。AI ツールがウェブから情報を取得する場合、その事件自体に含まれていない情報が持ち込まれることになります。この違いを理解してから開始するようにしてください。
3. AI が使用しているデータソースを把握する
AI が問い合わせているデータソースについて、基本的な理解を持つようにしましょう。携帯電話から抽出したデータを分析する場合は、どのようなアーティファクトが含まれているのかを把握してください。複数のデータソースを横断して作業する場合は、AI がアクセスできるデータソースとアクセスできないデータソースを把握してください。AI フォレンジック分析で明らかにできる関連性は、AI がアクセスできるデータに含まれるものに限られます。入力データに欠落があれば、結果にも欠落が生じます。出力を信頼する前に、その欠落がどこにあるのかを把握しておく必要があります。
4. AI をチームのメンバーとして扱う
AI 捜査ツールを最も生産的に利用する方法は、まるで同僚と仕事をするように AI を扱うことです。どのように結論に達したのかを尋ね、その調査結果に対して批判的に確認します。あるいは、別の角度を検討したかどうかを確認します。返された答えに確信が持てない場合は、根拠を説明するように求めます。AI を活用したフォレンジック分析は、質問したらそれで終わりの検索エンジンではなく、捜査に積極的に関与するメンバーのように扱うことで、最も効果を発揮します。
5. 具体的に質問する(AI は質問されたことにのみ回答する)
AI 捜査ツールが、聞かれなかった情報を自発的に提供することはありません。具体的な回答を求めるのであれば、具体的に質問するようにしてください。AI に背景情報を提供しましょう。対象者は誰か、どのような性質の捜査なのか、対象期間はいつか、どのようなつながりを明らかにしようとしているのかを AI に説明します。質問が具体的であるほど、出力される結果の関連性は高まります。キーワード検索を実行するのではなく、同僚にブリーフィングするのだと考えてください。
6. AI ツールが何を目的として設計されているのか、そして何を目的としていないのかを理解する
すべての AI 捜査ツールには利用範囲が定められています。アーティファクトの探索や精査の優先順位付けを目的に構築された AI は、検証プロセスを置き換えるようには設計されていません。このプロセスは引き続き、有資格の実務担当者が機関が承認したツールと手順を使用して行います。ツールが得意とすることを理解するとは、そのツールが最も価値を発揮する場面で使用し、本来想定されていない用途について評価しないということです。
7. 変わらないものを理解する
これは、デジタル捜査に AI を導入するすべての機関にとって最も重要な原則です。AI は精査の方法を変えるものであり、証拠に関するプロセスを変えるものではありません。
これまでと同じく、証拠の検証は、有資格の実務担当者が機関が承認したツールとプロセスを使用して行います。文書化、マーキング、証拠保全の連鎖は、機関の既存の手順に従って行われます。ピアレビューや専門家による精査に変更点はありません。開示義務、証拠能力の要件、裁判手続きは、英米法、大陸法、混合法のいずれの法体系であっても、引き続き有資格の実務担当者および関連する管轄区域の判断に委ねられます。精査の段階は、完全な手作業から AI 支援型の作業へと移行し、実務担当者は評価すべき項目により迅速にたどり着けるようになります。その後のすべての手順はこれまでと変わりません。
8. 根拠とするものすべてを検証する
AI を活用した捜査分析により、AI なしには見落としていたであろうつながり、タイムライン、パターンを特定できる場合がありますが、それが間違っている可能性もあります。事件で根拠とするものはすべて、有資格の実務担当者が、承認済みのツールとプロセスを使用して独立して検証する必要があります。これは、管轄区域や機関の種類を問わず、AI フォレンジックツールがどれほど高度であっても同じです。検証ステップは、その都度明示的に文書化するようにしてください。
9. 言語と翻訳に細心の注意を払う
AI を使用して外国語のコミュニケーション、文書、メッセージを翻訳する場合、AI翻訳は必ずしも「直訳(逐語訳)」で成立するわけではないことを理解しておく必要があります。ニュアンスや慣用表現、地域の方言が消えたり、誤って表現されたりすることがあります。AI 翻訳は完成品ではなく、人間による精査の出発点として扱ってください。証拠記録に含めるものについてはすべて、出力された翻訳を人間の有資格翻訳者が検証する必要があります。
10. 所属機関のポリシーと管轄区域の法律を把握する
デジタル捜査における AI の使用には、所属機関のポリシーや地域の法律が適用されます。また、管轄区域によっては、新たに定められる規制フレームワークにも従う必要があります。進行中の事件・案件で AI を導入する前に、所属機関の法務、プライバシー、コンプライアンス担当のアドバイザーに相談してください。裁判手続きにおける AI 支援分析の開示に関して、管轄区域で求められている事項を把握する必要があります。規則は、英米法法域と大陸法法域の間で、また国、州、地方自治体の各レベル間で大きく異なります。
デジタル捜査における AI の必要性を高める課題
捜査に持ち込まれるデジタル証拠の量は、今後も減ることはないでしょう。AI 捜査ツールがどのように役立つかを検討する前に、その必要性を高めている要因を整理しておく価値があります。
- データ量 スマートフォンから抽出されるデータには、数十万件のアーティファクトが含まれているのが一般的です。複数のデバイス、クラウドアカウント、通話詳細記録が関与する捜査では、1 件でも数百万ものデータポイントが生成される可能性があります。このような大量のデータを手作業で精査するのは持続可能ではありません。限られた人員で運用されている日本の都道府県レベルのフォレンジック部門では、これは喫緊の課題となります。
- 未処理案件 捜査チームのほとんどが未処理案件を抱えています。事件の検査・解析までに数週間から数ヵ月もの遅れが生じ、証拠は精査されないまま放置され、捜査は停滞します。需要はラボの処理能力を上回るペースで増え続けており、増員が現実的な選択肢となることはほとんどありません。
- デバイス間の関連付け 複数のデバイスを横断して、被疑者の位置情報データをアプリケーションのアクティビティ、コミュニケーションパターン、関係性と結びつけるには、1 人の実務担当者が同時に頭の中で把握しきれない量の証拠を関連付ける必要があります。その結果、重要な関連性が見落とされてしまいます。日本における組織犯罪の捜査は、一般に複数の被疑者、デバイス、通信プラットフォームを伴います。
- 捜査官のアクセス デジタル証拠から得られるインサイトを必要とする刑事や捜査官は、結果の解釈と提供をラボの調査官に頼っています。このボトルネックにより、証拠収集から、捜査に活用できる情報が事件担当者に届くまでに、数日から数週間の遅れが生じます。
- 法廷での証拠能力に関するプレッシャー AI 捜査ツールが普及するにつれ、各管轄区域の法律顧問は AI の手法をますます厳格に精査するようになっています。調査官は、確認した内容だけでなく、どのように確認したのか、すなわち使用したツール、そのバージョン、結果の検証方法についても記録する必要があります。この要件は、日本の刑事訴訟法においても同様に適用されます。
Cellebrite Genesis は、携帯電話から抽出されたデータ、Portable Case、CDR、その他のフォレンジックデータ形式をネイティブに分析し、個々の調査結果について元データまでの完全な追跡可能性を維持しながら、関連性やタイムラインを明らかにします。実務担当者は、その全過程を通じて主導権を保持します。
よくある質問
AI はフォレンジック調査官や捜査官の代わりになりますか?
いいえ。AI フォレンジックツールは、初期のトリアージやアーティファクトの特定に要する時間を大幅に短縮でき、Cellebrite Genesis などのツールを使用する捜査機関では初期トリアージ時間が 80% 以上短縮されたと報告されています。しかし、調査結果の解釈、証拠の検証、証拠保全の連鎖の維持、法廷での提示は、引き続き実務担当者の責任です。AI は、より迅速に重要な情報へ導きます。それをどう扱うかは、完全にあなた自身の判断に委ねられます。
デジタル捜査に AI を使用する場合、証拠の取り扱い方法が変わりますか?
いいえ。精査の方法は変わりますが、証拠に関するプロセスは変わりません。検証、文書化、証拠保全の連鎖、ピアレビュー、裁判手続きはすべて、管轄区域の枠組み内で、これまでとまったく同じように継続されます。重要な証拠を迅速に特定できるようになることが、AI のもたらす変化です。
ローカルデータを使用する AI とインターネットからデータを取得する AI に違いはありますか?
はい、あります。この違いは、捜査での使用において非常に重要です。クローズドで安全な環境で動作する AI フォレンジックツールは、提供された証拠のみを分析します。一方、インターネットに接続されたツールは、その事件には含まれていなかった外部ソースの情報を取得する場合があります。開始する前に、その AI フォレンジックツールがローカルにある対象範囲内のデータを処理していることを必ず確認してください。
AI による捜査結果が法廷で認められるようにするには、どうすればよいですか?
元データまでの追跡可能性、検証、文書化の 3 点が重要です。追跡可能性については、AI によって生成されたすべての調査結果が、元の証拠に含まれる特定のアーティファクトまで遡れる必要があります。検証については、根拠として使用するすべての調査結果を、有資格の実務担当者が独立して検証する必要があります。文書化については、使用したツール、そのバージョン、ツールが分析したデータ、調査結果の検証方法を含め、あらゆる手順を明示的に文書化する必要があります。各管轄区域の裁判所は、AI を活用したフォレンジック分析手法をますます厳格に精査するようになっています。
AI による翻訳に確信が持てない場合、どうすればよいでしょうか?
AI による翻訳は、完成品ではなく出発点として扱ってください。AI翻訳は必ずしも「直訳(逐語訳)」で成立するわけではありません。ニュアンスや慣用表現、地域の方言が消えたり、誤って表現されたりすることがあります。証拠記録に含めるものについてはすべて、出力された翻訳を人間の有資格翻訳者が検証する必要があります。
AI 捜査ツールからより良い結果を得るにはどうすればよいですか?
具体的に質問してください。AI は、質問されたことにのみ回答します。求められていない情報を自発的に提供することはありません。背景情報を提示してから質問するようにしてください。対象者は誰か、どのような捜査か、対象期間はいつか、どのようなつながりを明らかにしようとしているのか、などを説明します。結果に満足できない場合は、AI に理由や推論過程を説明するよう求め、質問を練り直します。十分な成果を出すために背景情報を必要とする同僚にブリーフィングを行うように、AI を扱ってください。