デジタルフォレンジックの専門家として証言するには、技術的な知識以上のものが必要となります。明確さ、冷静さ、そして十分な準備が求められるのです。デジタルフォレンジックのベテランとして、私は最近、自分のキャリアの中でも特に注目を集めた事件での証言から学んだ重要な教訓を共有しました。地方裁判所での証言を控えている場合でも、全国的な注目を集める事件に備えている場合でも、これらのベストプラクティスは法廷での影響力を高めるのに役立ちます

1.証拠を知り、深く理解する

どんな専門家の証言でも、その基礎となるのは、証拠について明確かつ自信を持った説明を行う能力です。アーティファクト(デジタル証拠)を示すだけでは不十分です。背後にある全体の経緯を理解する必要があります。そのアーティファクトはどのように作成されたのか、それを生み出したアプリやユーザーの操作は何だったのか、削除されたのか、変更されたのか、システムが生成したのか、といったことを理解しなくてはなりません。

場合によっては、ツールが示す内容を超えて、そのデータがどのように生成されたかまで掘り下げる必要があります。  たとえば、次のような点です。

  • 検索語が入力されたのか、それともオートコンプリートによるものか
  • 場所を訪れたのか、それとも検索したのか
  • 画像はユーザーが保存したのか、デバイスによって保存されたのか

違いを理解し、それを明確に説明しなくてはなりません。「説明できない場合は、その理由を知ること」が重要であると、私は常に強調しています。技術的制限、ツールの制約、アクセス権の欠如など、理由が何であれです。曖昧な証言では信用を得られませんが、制限を明確に説明すれば信頼性を維持できます。

2.決定的証拠を特定する

すべてのアーティファクト(デジタル証拠)が同等の価値を持つわけではありません。中には、事件の結果に大きな影響を与えるものもあります。経験を積むことで、そのような「決定的」データを見極められるようになります。具体的には、判決に影響を与える可能性のある場所、検索語句、メモ、メッセージなどです。

見つけたからといって、あわてて法務チームに伝えたり、「動かぬ証拠」と喜んだりせず、落ち着いて検証してください。イアンの言葉を借りるなら、「一歩引いて、自分が正しいかどうかを検証すること」です。重要なアーティファクト(デジタル証拠)であると早まって断定すると、法廷での失策につながる可能性があります。重要な調査結果を共有したいという高揚感は、慎重な検証と徹底的な照合によって常にバランスを取る必要があります。証人席で正しく証言できる機会は一度きりです。

3.最も厳しい質問に備える

優れた証言とは、知っている事柄を話す、ということだけではありません。知らないことにどう対応するかも、証言の質を左右します。相手側の弁護士になったつもりで準備してください。どこに異議を唱えるかを考えてみてください。相手は、どのような前提条件を突いてくるでしょうか。

特に新しいデータタイプや未検証のデータタイプに関して、想定される質問を整理しておくことをお勧めします。答えられない質問をされた場合でも、決してごまかしてはいけません。信頼性のある回答としては、「それは現在のツールの機能範囲外です」や「そのシナリオは直接テストしていませんが、わかっていることは次のとおりです」などがあります。率直であることが信頼につながります。

また、弁護士との連携も必要です。特に技術的または曖昧な内容の場合には、データが何を意味し、何を意味しないのかを弁護士に十分理解してもらう必要があります。あなたの役割は、デジタルの複雑さを法廷で通じる明快さに変換することです。

4.事件に応じて手法を最適化する

各捜査はそれぞれが別物であり、証拠戦略もそれに応じて変える必要があります。チェックリストや手順を用意しておくことは有用ですが、汎用的な手法に固執すべきではありません。

被害者が自宅で発見された場合、位置情報データは重要ではないかもしれません。しかし、被害者が通常とは異なる場所で発見された場合には、位置情報データが事件全体の鍵となる可能性があります。優先すべきアーティファクト(デジタル証拠)は、捜査官が何を証明しようとしているのか、自身の調査権限はどこまで及ぶのかによって異なってきます。 

デジタルデバイスには大量のデータが含まれており、必要な証拠がツールで解析されない場合もあります。臆せずに掘り下げ、新たな発見を目指してください。ただし、それには追加の検証が必要です。

私はある事件で、車両の駐車記録を用いて位置情報データに関する仮説を検証するために 6 ヵ月を費やしました。それが標準的なやり方だったからではなく、必要だったからです。

5.ノイズを遮断する

注目度の高い事件はプレッシャーを伴います。世間の論評、SNS 上での監視、さらには批判の声が負担となりかねません。私のやり方は、それらを遮断することです。証言の前に、私は X(旧 Twitter)を絶ち、Reddit のスレッドは無視し、報道には一切触れませんでした。

目的は、情報の遮断ではありません。思考を鈍らせず、感情的に中立を保つためでした。社会的なプレッシャーは、思考を曇らせたり、自分の仕事を過剰に説明、擁護したりする原因になります。集中と客観性を保つための最もよい方法は、外部の雑音を制限し、目の前の証言に完全に注力することです。

たとえ注目度の高くない事件であっても、この姿勢は重要です。法廷での証言は常に、顕微鏡で見られているつもりで臨んでください。実際に精査される可能性があるからです。

まとめ

専門家としての証言で重要なのは、知識だけではありません。修養、柔軟性、そしてプロ意識が求められます。証拠を深く理解し、最も厳しい質問に備え、プレッシャー下でも集中することで、単なる証人ではなく、法廷における信頼できる専門的権威としての立場を築くことができます。

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